EduDX Report      

SCORMの概要から応用まで

2023年12月15日 仲林 清(EduDX lab.Asia所長)

今回から何回かに分けて,eラーニングコンテンツの標準規格SCORMを紹介します.今回はSCORMの歴史を紹介します.

技術標準化の意義
まず,工業製品などにおける技術標準化の意義について考えてみます.みなさんの身の回りにある例として,電気製品のコンセントとプラグを取り上げます.みなさんはお店で電気製品,例えば,ヘアドライヤーを買うとき,「このヘアドライヤーのプラグは家のコンセントにささるだろうか?」とか「電圧は合っているだろうか?」と考えるでしょうか? そのようなことを心配するよりも,「髪をすばやく乾かせるか」とか「デザインが好みに合っているか」といったことを考えると思います.そして,実際に,ヘアドライヤーのプラグが家のコンセントにささらない,とか,電圧が合わずに使えない,といった問題は起きないと思います.実は,このようなことを気にせずに電気製品が家で問題なく使えることが,技術標準化の意義なのです.電気製品のプラグやコンセントの形状,電圧,周波数などは標準規格で決められています.一方,日本と海外では,規格が異なりますので,海外旅行の際には,「このヘアドライヤーのプラグはホテルのコンセントにささるだろうか?」と心配しなくてはなりません.

このような標準規格はさまざまな工業製品に見ることができます.例えば,ビデオレコーダーのDVDやブルーレイディスク,パソコンのUSBインターフェース,Wi-Fiの通信プロトコルなどが挙げられます.これらの共通の特徴は,製品・システムの構成要素を「モジュール」に分け,モジュールの間に明確なインターフェースを規定することです.例えばDVDの場合は,ビデオレコーダーとDVDディスクが「モジュール」で,モジュール間に,ディスクの形状や記録・再生方法といった「インターフェース」が規定されています. このような標準規格を規定することで,製品の利用者は,モジュールを自由に選択することが可能になります.例えば,ビデオレコーダーとDVDディスクが同じ会社の製品でなくても利用可能になりますので,ビデオレコーダーは再生画質を重視し,DVDディスクは価格を重視して異なる会社の製品を選ぶことができます.また,ビデオレコーダーが古くなって代わりに他社製品を購入しても,いままでDVDディスクに録画した動画は相変わらず視聴できます.

このような標準規格を規定することで,製品の利用者は,モジュールを自由に選択することが可能になります.例えば,ビデオレコーダーとDVDディスクが同じ会社の製品でなくても利用可能になりますので,ビデオレコーダーは再生画質を重視し,DVDディスクは価格を重視して異なる会社の製品を選ぶことができます.また,ビデオレコーダーが古くなって代わりに他社製品を購入しても,いままでDVDディスクに録画した動画は相変わらず視聴できます.

また製品の提供者にとっても標準規格はメリットがあります.例えば,PC用ハードディスクの製造会社は,USBインターフェースを採用することで,さまざまな会社のPCに自社のハードディスクが接続可能となります.もしこのような標準規格がなく,各社のPCのハードディスクインターフェースがバラバラだとしたら,ハードディスクの製造会社はそれぞれに合わせたハードディスクを製造する必要があり,製品の開発期間や製造コストの増加を招くことになるでしょう.

eラーニングにおける技術標準化
次にeラーニング分野での技術標準化について考えていきます.eラーニングではLMS(学習管理システム)を用いて,利用者情報,教材コンテンツ,学習履歴情報などを管理することが一般的です.実は,これらの三つの情報は,一定のフォーマットによってLMSで管理されており,それぞれが技術標準化の対象になりえるのですが,ここではコンテンツに話を絞ります.

LMSとコンテンツの関係は,さきほどのビデオレコーダーとDVDディスクの関係になぞらえることができるでしょう.コンテンツの標準規格が定められていれば,LMSの利用者は,さまざまな会社から,必要に応じた内容のコンテンツを価格なども考えて購入することができるでしょう.また,独自のコンテンツが必要な場合も,標準規格に準拠したオーサリングツールを選択して自分でコンテンツを作成できます.もし標準規格がなければ,特定のLMSのフォーマットに合ったコンテンツやオーサリングツールしか利用できず,選択肢の幅が非常に狭まってしまうことが考えられます.LMSが古くなって入れ替えようとしても同じ会社のLMSしか選択できず,他社からより優れたLMSが出ていても,いままでのコンテンツを乗せ換えるには,すべて作りかえないとならなくなります.

実はeラーニングの歴史を振り返ると,このような考え方は比較的新しいものと言えます.コンピュータを教育に活用しようという発想は,コンピュータの出現当時から存在しました.このような動きは,1970~1980年代のマイクロコンピュータ,パーソナルコンピュータの普及によって具体化してきました.CAI(Computer-Aided Instruction)やCBT(Computer-Based Training)と呼ばれるシステムが現れ,マルチメディア技術を用いた教材パッケージなどが開発されました.しかし,当時はインターネットの普及以前で,これらの教材パッケージもCD-ROMなどで個別に販売されていました.その後,1990年代に入ってインターネット,WWWが普及し,WBT(Web-Based Training)と呼ばれるシステムが現れます.これらのシステムでは,複数の学習者がWebサーバ上に置かれたコンテンツにネットワーク経由でアクセスする形態をとっており,学習者の管理を行って学習履歴を取得し,講師や管理者が学習者の学習履歴を見て学習状況を確認できる機能が一般化しました.また,これらのシステムでは,独自のコンテンツフォーマットを定めており,専用のオーサリングツールで利用者自身がコンテンツを作成できるものも存在しました.しかし,コンテンツフォーマットは製品ごとにバラバラで,コンテンツを他社のシステムに乗せ換えることはできませんでした.その後,1990年代の終わりごろから,異なるWBTやLMS間でコンテンツを共有・流通させるための技術標準化の動きが起こり,2000年代に入ってSCORM(Sharing Content Object Reference Model)規格が登場したのです.

SCORMの構成と標準化の内容
SCORMには2001年に発表されたSCORM 1.2と,その後,2004年に発表されたSCORM 2004があります.どちらの規格でも,Webサーバ(LMS)上のコンテンツに学習者がWebブラウザを用いてアクセスする形態を想定しています.SCORMのコンテンツは,コンテンツの目次構造を指定するためのファイルと,目次の各ページに対応した複数のWebコンテンツから構成されます.学習者がLMSにログインしてSCORMコンテンツを起動すると,LMSは目次の構造に従って,学習者のブラウザにWebコンテンツを表示します Webコンテンツは一般的なHTMLコンテンツで,音声や動画などのマルチメディアコンテンツも使用できます.さらに,JavaScriptなどを用いた対話的なテストやシミュレーション教材などを利用することも可能です.SCORMでは,WebコンテンツとLMSの間で情報をやり取りするためのAPIを定めていて,テストコンテンツなどはこのAPIを用いて,学習者の解答・得点・所要時間などの学習履歴情報をLMSに記録することができます.

一方で,SCORMでは,テストの出題形式・採点方法などに規格上の制約を設けていません.これは,多くの独自仕様のWBTが,あらかじめテストの出題形式や採点規則,ヒントの機能などを定めていて,その範囲内でのコンテンツ作成・学習履歴情報記録しかできないのと対照的です.SCORMが規定されたのは2000年代前半ですが,その後のHTMLやブラウザ技術の進歩を見越して,WebコンテンツとLMSの間のAPIだけを定めておき,Webコンテンツに機能的な制約を課さない,という設計思想が表われています.

以上はSCORM 1.2とSCORM 2004に共通の内容で,Webコンテンツの提示,テストによる理解状況の確認,学習履歴の記録を行うことができます.さらに,SCORM 2004ではこれらに加えて,学習者のテストの得点などをもとに,LMSがWebコンテンツのページを選択して表示するシーケンシング機能が追加されました.この機能を使うと,学習者が理解している内容のページをスキップしたり,テストで合格できなかった内容を補足するページを表示する,といった学習者適応機能を実現することができます.

参考文献

(1) 仲林清:“eラーニング技術標準化と学習教授活動のデザイン―オープンな教育エコシステムの構築を目指して―”,人工知能学会誌,Vol.25, No.2, pp.250‒258 (2010)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsai/25/2/25_250/_pdf

(2) 特定非営利活動法人日本イーラーニングコンソシアム:SCORM技術者テキスト (2012)
https://www.elc.or.jp/files/user/doc/SCORM_textV1.1.pdf
https://www.elc.or.jp/edtech/scorm/

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