EduDX Report      

AI時代の学校教育の形
〜DX時代の学校教育-変わる社会・学校・学びを概観する-〜

2025年1月31日 宮田 純也(一般社団法人未来の先生フォーラム 代表理事/横浜市立大学 特任准教授

本章では、生成AIと教育の現状を概観し、その関係性について考察する。

マサチューセッツ工科大学メディアラボ教授であり、世界的に利用されているプログラミング言語「Scratch」の開発者でもあるミッチェル・レズニック(2024)は、「Generative AI and Creative Learning: Concerns, Opportunities, and Choices」という論文のなかで以下のように主張した。

<生成AIの課題>
・学習者の主体性を制限する
現在の多くのAIツールは「指導型」であり、学習者が目標を設定し主体的に学ぶ機会を奪っている。これにより、クリエイティブな思考や自己管理能力が育ちにくい。例えば、特定の解答を導き出すことに特化したAIの使用により、児童生徒は自ら試行錯誤する機会を減らしてしまう可能性がある。特に、自由な発想が求められる場面での学習意欲を損ねる懸念がある。また、個々の学習ペースや興味を考慮した学びが困難になることも問題視されている。

・学習に偏りがある
AIツールは、単一の正解を求める問題に焦点を当てがちで、よりオープンエンドなプロジェクト型学習が軽視されている。この偏りが続けば、児童生徒の思考力や創造力を涵養する機会を損ない、豊かな学びの可能性が制限される恐れがある。例えば、探究学習や協働的なプロジェクトにおいて、答えが一つに定まらない問題を解決する力を育む場面では、AIの限界が顕著に現れる。多様な視点や創造的なアプローチを学ぶことは、現代社会において重要なスキルであり、AIの活用だけでは得られない学びを提供する必要がある。

・人間的なつながりを軽視している
AIチューターは便利だが、教員が持つ共感力や人間関係の構築力に取って代わることはできない。教育とは単に知識を伝達する行為ではなく、共感と信頼の上に築かれる相互作用である。AIを通じた指導が増えるほど、生徒と教師の対話を通じた学びの深さが失われるリスクがある。特に、社会情緒的スキルを育成する場面では、人間同士のつながりが不可欠である。児童生徒は教員からの支援やフィードバックを通じて自己効力感を高め、他者とのコミュニケーションを通じて社会性を育む。

これらの課題は、教育における本質的な懸念を浮き彫りにしている。孟子の「教えて之を育む」という教育の概念に基づけば、生成AIの活用が「教える」という側面を強化する一方で、「育てる」という教育の本質的な活動を軽視する危険性があると言える。教育の根幹には、児童生徒一人ひとりの個性や能力を引き出し、人間的成長を支援する使命がある。この観点からも、生成AIの導入に際しては慎重な判断が求められる。特に、生成AIが提供する自動化されたフィードバックは便利であるものの、生徒の感情や学習プロセスの個別性を考慮する点で、人間教師の代替にはならない。

一方で、レズニック氏は、生成AIを学びの補助ツールとして活用する場合、その有用性を認めている。教師や保護者、政策立案者が明確な価値観とビジョンを持ち、慎重に意思決定を行うことで、生成AIは新たな創造的学びを実現するための有効なツールとなる可能性があると述べている。具体的には、生成AIを用いたプロジェクトベースの学習で、生徒のアイデア創出や問題解決能力を促進する活用法が考えられる。例えば、AIを使って情報を検索し、分析した結果を基に新たな発想を生み出すことで、クリエイティブな思考を促進することが可能である。さらに、言語モデルを用いた文章生成やプレゼンテーションの準備においても、生成AIは支援ツールとしての役割を果たせる。

このように、生成AIは教育活動の発展に大きな可能性をもたらす一方で、従来の教育モデルの課題を助長するリスクも併せ持つ。その本質は、AI技術を人間中心の教育活動にどのように組み込むかにあると言える。明確なビジョンと慎重な選択が、生成AIを教育現場で効果的に活用する鍵となる。技術の進歩と教育哲学の融合が、持続可能で包摂的な教育環境の構築に不可欠である。例えば、生成AIを利用して教育資料の作成を効率化し、教師が生徒との直接的な対話や個別指導に多くの時間を割けるような環境を整備することが考えられる。

生成AIの登場により、教育における「教える」という活動をAIが担うことが推測される一方で、人間に求められる「育てる」という活動の意義が一層強調されるようになった。これにより、SEL(Social and Emotional Learning)のような非認知能力の育成が、社会的に重要視される時代へと移行している。共感力、自己管理能力、社会的責任感といった能力が、生涯学習の基盤としてますます重視されるだろう。特に、共感力を育む教育では、AIではなく生身の人間との対話が必要不可欠であり、SELの実践を通じて生徒が豊かな人間関係を築く力を得ることが目指される。

生成AIの普及により、教育における人間の役割が再定義されつつある。これまでの教育の流れを踏まえると、私たちが「育てる」という人間ならではの活動をいかに深く追求し、生成AIをどのように活用して教育活動を発展させるかが問われていると言える。人間が主導してAIと相補的に協働することにより、子どもが自らの好奇心を満たし、創造的に成長できる環境を構築する必要がある。これによってより豊かで多様な学びの形を実現することが可能となる。

参考文献:

・Mitchel Resnick. (2024, March 27). Generative AI and creative learning: Concerns, opportunities, and choices. MIT Generative AI Research. https://mit-genai.pubpub.org/pub/gj6eod3e/release/2

・宮田純也 著. (2025). 『教育ビジネス』. クロスメディア・パブリッシング.

・宮田純也 編著. (2023). 『SCHOOL SHIFT』. 明治図書.

・宮田純也 編著. (2024). 『SCHOOL SHIFT2』. 明治図書.

・リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット 著、宮田純也 監修. (2023). 『16歳からのライフ・シフト』. 東洋経済新報社.

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