EduDX Report      

教育におけるデジタルバッジ活用の可能性はどこに?
〜連載:インストラクショナルデザインから見るデジタルバッジの可能性(1)~

2024年1月31日 天野 慧(グロービス経営大学院主任研究員)

みなさんは、デジタルバッジをご存知だろうか。毎年秋に開催され、eラーニングの最新動向についてセミナーなどを通じて紹介しているオンラインラーニングフォーラムではデジタルバッジをトピックとして多くのトラックが用意されていたり、企業が社内の人材育成で社員のスキルの可視化のためデジタルバッジを活用している事例が新聞などで紹介されていたりする。オンライン教育に関心がある方であれば、デジタルバッジという用語を聞いたことがあるという方は少なくないだろう。

さらに問いを重ねたい。デジタルバッジを知っているかという問いに加え、デジタルバッジはどんなもので、それを活用することで教育にどんな効果があるのか、と問われたら、どう答えるだろうか。たとえば、従来は紙で発行していた修了証を電子的に発行できるので便利であるという点が挙げられるかもしれない。あるいは、オンラインゲームのバッジやポイント同様に、学習者にご褒美を与え、学びへ向かう力を後押しする、外発的な動機づけを促すツールとして活用できるという点も挙げられるかもしれない。これらのデジタルバッジが果たしうる機能は、従来の修了証を発行というワークフローを効率化させたり、従来は学習者が「つまらないもの」「嫌なもの」とみなしがちな教育を楽しいものと転換したりといったように、従来の教育のあり方を前提にそれを効率化あるいは強化する道具としてデジタルバッジの活用がなされている。

しかし、と私は問いたい。デジタルバッジには、従来の学びのあり方を効率化、強化するための道具ではなく、学びのあるべき姿を実現するための道具として活用できるのではないだろうか。

従来の教育の効率化・強化とは異なるデジタルバッジ活用の可能性を見出すには
この連載では、そんなデジタルバッジの可能性を筆者の専門であるインストラクショナルデザインをベースとして多様な切り口で探っていく。インストラクショナルデザインとは、教育の効果・効率・魅力を高めるための視点や考え方を体系的にまとめている学問領域であり、ここで提案されている多様な理論やモデルの見方や考え方に依拠することで、従来の教育を前例踏襲するのではなく、教育がめざすものの本質を見出しつつ、ゼロベースで、教育のありたい姿を思い描くことができる。インストラクショナルデザインを参照することは、従来の教育の効率化や補強とは異なるかたちで、教育におけるデジタルバッジの活用可能性を見出すのに有効なアプローチだろう。

本連載のゴール
本稿は、教育におけるデジタルバッジの活用可能性に関する複数の記事で構成される連載を想定している。この連載を通じて、筆者が議論していきたいと考えているのは次の2点である。

(1)教育のあるべき姿を実現するための道具としてのデジタルバッジの活用可能性を見出す
本連載では、インストラクショナルデザインで提唱されているさまざまな見方と考え方をもとにデジタルバッジの教育における活用可能性を議論する。また、デジタルバッジが発展してきた歴史を遡ったり、国内外の最先端の活用事例を紹介したりといったように、時代の縦と横に移動しながら、デジタルバッジに対する視野を広げていきたいと考えている。逆に、本連載は教育分野での活用方法、いわゆるデザインを主に対象としているため、デジタルバッジに関する技術的なトピックを多くは扱わない。デジタルバッジには、オープンバッジという標準規格があり、記録の改ざん防止のための技術等が活発に議論されている。これらは一般社団法人 日本1EdTech協会のワーキンググループ(https://www.1edtechjapan.org/digital-badge-division)

で活発に議論されているので、興味がある方は、そちらを参照されたい。

(2)教育における新たな道具の活用可能性の見出し方の例を示す
デジタルバッジは道具にすぎない。したがって、その道具の活用の方法次第で、どのようなインパクトを教育に与えることができるかが変わってくる。この教育への道具の活用の仕方を考える際に強い味方となるのがインストラクショナルデザインであり、この見方や考え方を参照することによって、正しいゴールを据えて、正しい方向へむけてツールを活用することができる。

デジタルバッジのような新たな道具が登場する際には、その新しさのみが注目され、結果的に従来の決してうまくいってはいない教育の効率化・強化のために活用されてしまうというケースが少なくない。その結果、期待の割に残念なものであったというレッテルが貼られてしまう。そして、本来持っていた潜在可能性に光が当てられないまま、消えていくというパターンが多い。本連載では、デジタルバッジを事例として扱うが、教育において新たな道具の活用可能性を見出すにはどのような見方・考え方のアプローチができるのか、そうした例を示せればと考えている。

次回以降の連載記事では、デジタルバッジとは何か、学術研究におけるその定義を確認した上で、教育におけるデジタルバッジ活用の多様な可能性を議論していく。

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