EduDX Report      

これからの教員の在り方
〜DX時代の学校教育-変わる社会・学校・学びを概観する-〜

2025年1月31日 宮田 純也(一般社団法人未来の先生フォーラム 代表理事/横浜市立大学 特任准教授

学校教育の在り方が変容するにつれて、教員に求められる役割もまた変化していく必要がある。

明治時代において、学校は先端知が集積する場として位置づけられており、教師は教科書などを媒介に子どもたちに対して一斉指導を行い、読み書き算盤などの基礎学力を養成していた。この時代の学校教育は、情報が教師側に集中しており、「教える/教えられる」という非対称的かつ権力的な関係性に基づいて構築されていた。しかし、情報革命が進展し、知識が標準化されるとともに情報通信技術(ICT)の普及によって、誰もが効率的かつ容易に先端知へアクセス可能となった現代において、学校はもはや唯一の知識提供の場ではなくなった。この情報の非対称性の喪失は、教師と児童生徒との関係性を変容させ、授業の在り方そのものに再考を迫るものである。

現代における教育の新たな方向性として、「協働的な学び」が注目されている。個々の児童生徒が持つ知識やアイデアを相互に共有し、新たな価値を創出する場としての学校の役割が求められるようになっている。このような創造の場を構築するプロデューサーとしての教員の役割は、従来型の一斉指導から大きく変化している。知識基盤社会において、知識は依然として重要な基盤であるが、これを土台として知恵を創造することが必要とされている。ここでいう知恵とは、知識に価値観、思考、行動、省察を掛け合わせることで初めて形成されるものであり、このような高度化された学びを支えるためには、教員の役割もまた高度化することが求められる。

また、VUCA時代においては、教員が従来のように子どもたちを一方的に導く存在としての役割を担うことは次第に困難になりつつある。知識創造の観点からは、子ども一人ひとりの興味関心に基づいた主体的な学びを支援する伴走者としての役割がより重要となる。このため、教員にはティーチングよりもコーチングに近いファシリテーターのようなアプローチが求められるようになる。コーチングの語源である「馬車」が「大切な人をその望む場所へ送り届ける」という意味を持つように、教員も対話を通じて児童生徒の目標達成を支援し、学びを共に創り上げる存在として機能することが期待されている。

内閣府の「Society 5.0の実現に向けた教育・人材育成に関する政策パッケージ」は、従来型の定められた内容を計画的に教えるティーチングから、児童生徒が主体的に学ぶことを支援するコーチングへの転換を明確に打ち出している。このような時代の要請に応えるためには、教員は「子どもの成長を促進し、共に学び共に成長する伴走者」としての本質的な役割を深く認識し、実践することが求められるのである。

しかし、8章で触れたDXのSAMRモデルではredefinition(再定義)が行われることが特徴である。この場合、今までのような積み上げ型の学びでは不十分である。今日のような変化の時代では積み上げるだけのではなく、積み下ろす作業も加えながら新たな学びによって自分を再構築して更新するプロセスが重要だと言えるのではないだろうか。

この積み下ろすという営みが「アンラーニング(学びほぐし)」と呼ばれるものである。 「アンラーニング」とは、今まで自分が暗黙の前提としていた常識や行動・思考パターンに気づき、客観視しながらそれを改めていくというプロセスを指す。学校とはこういうもの、勉強とはこういうもの、という自分の前提を疑う姿勢が求められる。

これからマルチステージ型の人生が深まっていくにつれて、より一層自分とは異なる他者や環境に接する機会が増えていくことが予想される。自分たちが生きてきた社会と今の子どもが生きている、生きていく社会は大きく異なるのである。このとき、他者や環境について自分を映し出す鏡として意識し、自分自身に関する理解を深めていくことで、「アンラーニング」が行われる。

従って、未来を生きる子供たちとの触れ合いを通じて、教員はアンラーニングを行うことができるとも言える。このようにして、子どもだけではなく大人も一緒に学んでいく、学び合っていく社会が到来しているのではないだろうか。

また、私たちが生きている人生100年時代はマルチステージ型の人生になっていると言われ、流動化している。教員も従来のように勤め上げるという選択肢もありながら、転職や起業・独立など様々な移行を経験していく人が増えていくのではないかと推測している。教員の採用倍率が大幅に低下して、出戻り採用まで行われている現状を鑑みると、一回辞めて学校以外の世界を経験して、それで教員の魅力を再発見して戻ってくる人も一定数増えていくだろう。この時、「アンラーニング」が行われている可能性が高い。

流動化して様々な経験を積むことができるようになっている人生100年時代においては、自分はどう生きてキャリア形成していくのかということを問いながら生きていくことになり、さらに行動することも求められ、その実行障壁も下がっている。

このようにしてますます教員の多様化が進めば、色々な経験により広がった視野の広さを生かして教員としての専門性も高めることにつながり、さらにより良い教育活動が行われることになるだろう。

上述した変化を例として挙げたが、様々な変化が新たな教員の在り方を決め、学校教育がDXされる大きな鍵になると考えられる。

参考文献:

・内閣府.(2022).『Society 5.0の実現に向けた教育・人材育成に関する政策パッケージ. https://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/kyouikujinzai/saishu_print.pdf

・宮田純也 著. (2025). 『教育ビジネス』. クロスメディア・パブリッシング.

・宮田純也 編著. (2023). 『SCHOOL SHIFT』. 明治図書.

・宮田純也 編著. (2024). 『SCHOOL SHIFT2』. 明治図書.

・リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット 著、宮田純也 監修. (2023). 『16歳からのライフ・シフト』. 東洋経済新報社.

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