第4期教育振興基本計画:持続可能な社会の創り手へ
〜DX時代の学校教育-変わる社会・学校・学びを概観する-〜

2025年1月31日 宮田 純也(一般社団法人未来の先生フォーラム 代表理事/横浜市立大学 特任准教授)
今まで様々な視点で社会と学校教育の変化について概観してきたが、今後の学校教育を考えるうえで政策的要諦となる2023年6月16日に閣議決定された「第4期教育振興基本計画(2023~2027年度)」について既存の内容と関連付けながら触れておきたい。
教育振興基本計画とは、我が国の教育政策が向かう方向性を示すものであり、教育基本法第17条第1項に基づいて策定されている。第4期となる本計画は2040年以降の社会変化を見据え、予測困難な未来社会における教育の役割を羅針盤的に示し、日本の教育が社会全体の持続的発展を牽引する力となることを目指している。「持続可能な社会の創り手の育成」と「日本社会に根差したウェルビーイングの向上」を基本理念とし、5つの方針と16の目標を掲げている。本章では基本理念について解説する。
出所:https://www.mext.go.jp/content/20230615-mxt_soseisk02-100000597_02.pdf
社会課題の多様化とその複雑化に対応するためには、社会の変化に適応し、新しい価値を創造できる人材の育成が不可欠である。持続可能な社会を実現するための中心的な役割を果たすのは、人への投資を重視する教育政策である。特に主体性、課題解決能力、創造力、論理的思考力といった能力を持つ人材が求められる。本計画では、探究学習などの導入により、これらの能力を育成することが提案されている。これに加え、実社会との連携を強化し、地域や産業界と協働する学習機会を提供することが重要である。これにより、学びと実践を統合し、児童生徒は現実世界の課題を発見し、解決に向けて取り組むことができる。具体例として、地域課題に基づいたプロジェクト型学習や企業と連携したインターンシップの導入が挙げられる。これらの取り組みによって、子どもは学びの意義を実感し、実社会での応用力や創造性、深い理解、自発性、集合的知性、批判的思考など、人生100年時代における資質能力を養うことが可能になる。これにより様々な移行をポジティブに行う力を身に着けることは、人生100年時代に複線化する生涯にわたって学び続ける学習者として成長することであろう。
さらに、ICTを活用した教育の高度化も本計画の重要な柱である。遠隔教育やハイブリッド学習の普及により、学習者は地理的・時間的な制約を超えた学びの機会を得ることができる。AIやビッグデータを活用した個別最適な学びは、一人ひとりの学習スタイルに応じた指導を可能にし、学びの質を向上させる。また、国際的な視野を育成するための多言語教育や異文化理解を深めるプログラムも重要であり、生徒がグローバル社会に貢献する力を養うことが期待される。グローバルな課題に対する理解と行動力を高めるためには、地球環境問題や人権問題をテーマとしたカリキュラムを導入することも効果的である。
持続可能な社会を築くには、環境意識を育む教育も欠かせない。生徒に対して、資源の持続可能な利用や循環型経済の仕組みを理解させ、行動に移す力を養うことが求められる。例えば、学校内でのリサイクル活動や、地域社会と連携した環境保護プロジェクトに参加することで、環境への関心と責任感を高めることができる。これにより、持続可能な社会の実現に寄与する次世代のリーダーを育成することができるのである。
また、ウェルビーイングの向上は、社会全体の幸福度を高める上で欠かせない要素である。本計画が定義するウェルビーイングは、身体的、精神的、社会的に良好な状態を包括する概念であり、短期的な幸福感を超えて、人生の意義や生きがいを含むものである。日本社会に根差した「利他性」や「協調性」といった価値観を重視しながらも、個人の自尊心や自己効力感を育む教育が求められている。例えば、いじめ防止やメンタルヘルスケアの充実を通じて生徒の心理的健康を支援し、心の安定と社会的つながりを強化することが挙げられる。多様性の尊重と共感力の育成も、グローバル化が進む現代社会において欠かせない。
また、教師のウェルビーイングも生徒の学びの質に直結する要因である。教員の業務負担軽減を目的としたICTツールの導入や、同僚間の協働を促進する文化の形成が、より良い教育環境の構築に寄与する。こうした取り組みは、教育の質を高め、持続的で効果的な学びの場を実現する基盤となる。さらに、スクールカウンセラーや保健室の役割を強化し、子どもたちの心身の健康を包括的にサポートする体制づくりも求められる。心のケアだけでなく、栄養指導や運動習慣の促進といった取り組みも、子どもたちの全体的な健康に寄与する。
ウェルビーイングを深化させるためには、学校教育だけでなく、生涯学習の推進も不可欠である。成人教育や地域における学びの場の整備は、自己実現を追求する機会を生涯にわたって提供し、社会全体のレジリエンスを高める。これにより、個人の幸福と社会の安定が同時に促進される。例えば、地域コミュニティでのワークショップや、リタイア後の学び直しプログラムは、生涯にわたる学習意欲を支え、人々の社会参加と自立を促す。本計画が掲げる目標は、個人の成長と社会的成功のバランスを取りつつ、持続可能な未来を築くための基盤を形成するものである。
教育は社会の根幹であり、その質と方向性が、次世代の幸福と繁栄を左右する。本計画の実施を通じて、教育が社会に果たす役割の重要性が再確認されるとともに、変化に対応し続ける力が日本の未来を支える鍵となるだろう。持続可能な社会の創り手を育成し、全体的なウェルビーイングを高めることは、経済成長と文化的豊かさの両方を実現するための不可欠な要素であり、今後も継続的な取り組みが求められる。
最後に、ウェルビーイングの向上には、学校全体での包括的なアプローチが必要である。スクールカウンセラーや保健室の役割を強化し、子どもたちの心身の健康を包括的に支援する体制の整備が求められる。また、家庭や地域社会との連携を深めることで、生徒が安心して学べる環境づくりが進められる。このように、教育の質の向上とウェルビーイングの実現は、互いに密接に関連しながら、次世代の社会的成功と幸福を支える柱となるのである。
どのような時代も変わるのは社会やテクノロジー、ツール、教育方法であり、教育の持つ普遍的な価値や教育基本法第1条に掲げられている「教育は、人格の完成をめざし、平和的な国家及び社会の形成者として、真理と正義を愛し、個人の価値を尊び、勤労と責任を重んじ、自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民の育成を期して行わなければならない」という目的は変わることはない。私たちがいま生きている社会やテクノロジーなどについて適切な認識で学び、変容しながら実践を重ねていくことが大切ではないだろうか。
参考文献:
・文部科学省. (n.d.).『教育振興基本計画』. https://www.mext.go.jp/a_menu/keikaku/index.htm
・宮田純也 著. (2025). 『教育ビジネス』. クロスメディア・パブリッシング.
・宮田純也 編著. (2023). 『SCHOOL SHIFT』. 明治図書.
・宮田純也 編著. (2024). 『SCHOOL SHIFT2』. 明治図書.
・リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット 著、宮田純也 監修. (2023). 『16歳からのライフ・シフト』. 東洋経済新報社.