はじめに
企業でLMSを運用していると、入社、異動、昇進、退職などにあわせて、LMS側の利用者情報や組織情報も更新する場面が増えてきます。
社員数や異動が増えると、人事システムとLMSの両方に同じ情報を登録・更新する作業が増え、反映漏れや情報の不一致が起こることもあります。
こうした課題からLMSと人事システムの連携を検討する場合でも、実際には「社員情報をLMSへ反映する」だけではなく、ログインのための認証、組織情報の更新、学習・修了情報の受け渡しなど、複数の領域に分けて考える必要があります。
そのため、「APIでつなぐか」といった方法から入るのではなく、どの情報をどのシステムで管理し、どちらへ、どのタイミングで渡したいのかを整理しておくと、必要な連携の形が見えやすくなります。
この記事では、LMSと人事システムの連携を考えるときに整理しておきたい領域や、連携する情報、データの流れ、更新タイミングなど、検討時のポイントを紹介します。
- 認証、アカウント・組織情報、学習・修了情報の違い
- LMSと人事システムで連携できる主な情報
- 情報の基準となるシステムを考えるときのポイント
- 一方向・双方向のデータ連携の考え方
- 更新タイミングやエラー時の運用で確認しておきたいこと
LMS連携で整理しておきたい3つの領域
LMS周辺のシステム連携には、目的の異なる仕組みがあります。
特に、次の3つを分けて考えると、「何を連携したいのか」を整理しやすくなります。
1. 認証
認証は、利用者が「誰であるか」を確認し、LMSへログインできるようにする仕組みです。
SSO(シングルサインオン)などは、この領域に含まれます。
認証とあわせて、「認可」という考え方もあります。認証が「その利用者が誰であるか」を確認する仕組みであるのに対し、認可は「その利用者が何をできるか、どの範囲を利用できるか」を決める考え方です。
一方で、認証や認可ができることと、社員情報や組織情報がLMSへ自動的に登録・更新されることは同じではありません。
そのため、「ログインを簡単にしたい」のか、「人事情報も自動的に反映したい」のかは分けて考える必要があります。
2. アカウント・組織情報の連携
社員番号、氏名、メールアドレス、在籍状況、所属部署、役職、職種などをLMSへ反映する領域です。
これらの情報は、利用者登録だけでなく、組織に応じた研修の割り当てや管理に利用する場合もあります。
例えば、人事異動にあわせて所属部署をLMSへ反映したい場合は、この領域の連携を検討します。
3. 学習・修了情報の連携
LMS側で記録した受講状況、修了日、テスト結果などを、人事システムやタレントマネジメントシステムなどで利用する領域です。
例えば、修了済みの研修を人材情報として参照したい場合や、資格・認定情報として別システムでも管理したい場合などが考えられます。
どの情報を連携できるか、どこまで必要かは、利用する製品や目的によって異なります。
この3つを分けて考えると、
- ログインを便利にしたい
- 入退社や異動の反映を効率化したい
- 学習実績を別の人材情報とあわせて利用したい
といった目的の違いが見えやすくなります。
どの情報を連携するのか
人事システムが持つすべての情報をLMSで利用する必要があるとは限りません。
研修運用で何に使いたいのかを確認しながら、必要な項目を整理すると考えやすくなります。
主な連携情報として、次のようなものがあります。
- 利用者の基本情報:社員番号、氏名、メールアドレスなど
- 在籍管理:在籍状況、入社日、退職日など
- 組織情報:部署、部門、拠点、役職、職種など
- 学習・修了情報:受講状況、修了日、結果など
部署ごとに必須研修を割り当てたい場合は、所属部署の情報が必要になります。
一方で、LMS上で利用しない情報まで連携すると、項目の定義、変更時の影響、エラー処理など、確認することも増えていきます。
連携できる情報をすべて渡すのではなく、「その情報をどの業務で使うのか」を基準に考えると、必要な項目を絞りやすくなります。
連携すると効率化しやすい業務
LMSと人事システムを連携すると、同じ情報を複数のシステムへ入力・更新している業務を減らせる場合があります。
入社時の利用者登録
人事システムに登録された社員情報をLMSへ反映できれば、新しい社員のアカウント作成や基本情報の入力作業を減らせます。
入社日を基準に研修を案内する運用では、利用者登録と研修割り当てをつなげやすくなることもあります。
異動・昇進時の所属情報更新
所属部署や役職の変更をLMSへ反映することで、現在の組織情報に基づいた利用者管理や研修割り当てにつなげやすくなります。
異動のたびにLMS側の情報を手作業で更新している場合は、更新作業や反映漏れを減らせる可能性があります。
対象者に応じた研修提供
部署、役職、職種などを研修対象の条件として利用する場合、人事情報をLMSへ反映することで、対象者の判定を効率化しやすくなります。
例えば、管理職向け、新入社員向け、特定業務の担当者向けなど、対象に応じて異なる研修を提供する運用が考えられます。
退職・休職等のアカウント管理
在籍状況の変更をLMSへ反映することで、退職者や休職者の利用停止などの処理を行いやすくなる場合があります。
ただし、アカウントを利用できなくすることと、過去の学習履歴を削除することは別の判断になります。
情報の基準となるシステムを整理する
同じ氏名、所属、役職などを複数のシステムで個別に編集できると、どちらが最新の情報なのか分からなくなることがあります。
そのため、項目ごとに、どのシステムの情報を基準として扱うのかを整理しておくと、更新ルールを考えやすくなります。
こうした基準となるシステムは、System of Record(SoR)と呼ばれることがあります。
例えば、
- 社員番号・在籍状況・所属部署は人事システムを基準とする
- LMSでは人事システムから受け取った所属情報を原則として個別に変更しない
- 受講状況や修了日はLMSを基準とする
といった運用が考えられます。
どのシステムを基準とするかは、すべての情報で同じとは限りません。
社員情報は人事システム、学習・修了情報はLMSというように、情報の種類によって基準となるシステムが異なる場合もあります。
データをどちらへ渡すか
データがどちらへ流れるのかも、連携を考えるときのポイントです。
例えば、人事システムからLMSへ社員情報を送る場合は、
人事システム → LMS
という一方向の連携になります。
一方で、LMSで記録した修了情報を人事システムやタレントマネジメントシステムへ渡したい場合は、
LMS → 人事・タレントマネジメントシステム
という反対方向の連携も必要になります。
複数の方向にデータが流れること自体に問題があるわけではありません。
ただし、同じ項目を複数のシステムから更新できるようにすると、どちらの値を優先するのか判断が複雑になることがあります。
そのため、項目ごとに「どこからどこへ渡すのか」を整理しておくと、データの流れを把握しやすくなります。
なお、データが流れる方向と、APIをどちらのシステムが呼び出すかは同じとは限りません。
例えば、人事システムの情報をLMSへ反映する場合でも、
- 人事システム側からLMSのAPIへデータを送る
- LMS側が人事システムのAPIからデータを取得する
といった構成が考えられます。
そのため、「データをどちらへ渡すか」と「どちらのシステムがAPIを呼び出すか」は分けて考えると、連携の仕組みを整理しやすくなります。
更新タイミングとエラー時の運用
連携する情報によって、必要な更新頻度は異なります。
すべての情報をリアルタイムに反映する必要があるとは限らず、1日1回など、一定の間隔で反映すれば十分な場合もあります。
例えば、所属部署の更新は1日1回で問題なくても、入社時のアカウント作成はできるだけ早く反映したい、といった違いも考えられます。
どの程度の鮮度が必要なのかを確認すると、適した連携方法や運用の形を考えやすくなります。
また、連携が失敗した場合にどう対応するかも確認しておきたいポイントです。
例えば、
- 連携に失敗したことを誰が確認するか
- どのデータが反映されなかったか確認できるか
- 再実行や手動修正を誰が行うか
- 退職者など重要な更新が失敗した場合にどう対応するか
といった点があります。
連携後に誰がエラーを確認し、必要な対応を行うのかまで整理しておくと、運用しやすくなります。
連携方法を選ぶ
連携したい情報や運用が整理できた後で、具体的な連携方法を検討します。
システム間の連携には、手動での登録、CSVなどのファイルを利用した連携、APIを利用した連携などがあります。
これまでもCSVなどのファイル連携は広く利用されてきましたが、現在は、更新頻度や自動化の要件に応じてAPIを利用した連携が選ばれるケースも増えています。
例えば、
- CSVなどのファイルを定期的に取り込む
- APIを利用してシステム間でデータを受け渡す
- 製品に用意されている連携機能を利用する
といった方法があります。
どの方法が適しているかは、
- 連携する情報
- 更新頻度
- 対象人数
- セキュリティ要件
- 人事システム・LMS双方の仕様
- 運用・保守の体制
などによって変わります。
例えば、1日1回の更新で十分で、連携する項目も少ない場合には、必ずしもリアルタイムのAPI連携が必要とは限りません。
一方で、更新頻度が高い場合や、複数の処理を連動させたい場合には、APIなどを利用した連携が適していることもあります。
先に整理した業務要件に合わせて連携方法を選ぶと、必要以上に複雑な仕組みにせずに検討しやすくなります。
Moodleとの連携を検討する場合
Moodle LMSやMoodle Workplaceを人事システムなどと組み合わせる場合も、まず、
- 認証
- 利用者・組織情報
- 学習・修了情報
のどこを連携したいのかを整理すると考えやすくなります。
Moodleでは、外部システムとの連携にWebサービスやAPIなどを利用できます。
また、Moodle Workplaceでは、部署や役職などの組織構造を表現し、学習プログラムなどと組み合わせて企業研修の運用に利用することもできます。
実際に連携を検討する際には、
- 利用者を一意に識別する情報
- 組織情報の持ち方
- 人事異動時の更新方法
- 更新頻度
- 研修対象者の割り当て方法
- 退職時のアカウントと履歴の扱い
- LMSから別システムへ返したい学習・修了情報
などを整理しておくと、必要な連携方法を確認しやすくなります。
利用できる連携方法や対象となるデータは、Moodleのバージョンや構成、利用している機能、連携先システムの仕様などによって異なります。
そのため、具体的な連携方法を決める前に、「どの情報を、どのような業務に使いたいのか」を整理しておくことがポイントです。
まとめ
LMSと人事システムの連携では、認証、アカウント・組織情報、学習・修了情報を分けて考えると、何を連携したいのか整理しやすくなります。
そのうえで、
- どの情報を連携するのか
- どのシステムの情報を基準とするのか
- データをどちらへ渡すのか
- どのタイミングで更新するのか
- エラーが起きた場合に誰が対応するのか
といった点を確認していくと、必要な連携方法が見えやすくなります。
まずは現在の運用で、同じ情報を複数のシステムへ入力している箇所や、更新漏れ・確認作業が発生している箇所を洗い出し、「どの情報を連携すると、どの作業を減らせるのか」を考えてみるとよいでしょう。
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執筆:株式会社イーラーニング コンテンツ編集部
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