EduDX Report      

OECD Learning Compass 2030から考える 国際的な学校教育改革のトレンドと日本
〜DX時代の学校教育-変わる社会・学校・学びを概観する-〜

2025年1月31日 宮田 純也(一般社団法人未来の先生フォーラム 代表理事/横浜市立大学 特任准教授

我が国を巡る学校教育に関する改革とその社会変化を今まで確認してきたが、本章では国際的な学校改革のトレンドを確認する。

OECDが2019年に発表した「OECD Learning Compass 2030」を考察すると、我が国の教育改革トレンドは国際的な動きと連動していることがわかる。

この「Learning Compass(日本語訳:学びの羅針盤)」は、VUCA時代に生きる子どもたちが、自己の未来を主体的に切り開く力を育むための方向性を示すものである。この考え方は、田中茂範氏が著書『SCHOOL SHIFT』で述べたように、教育の目的を「世界を変革できるように学びを方向付ける」(P.72)ことに見出しており、教育が求めるのは単なる知識の習得ではなく、子どもたちが不確実な状況において自己をナビゲートし、協働して行動する力を育むことであるとされる。

「OECD Learning Compass 2030」において掲げられている重要な概念は「エージェンシー」であり、これは教育における最も重要な力として注目されている。エージェンシーとは、「目標を設定し、責任を持って主体的に行動し、良い変化を引き起こす力」を指し、現代の教育においては、生徒自身のエージェンシーを高め、また他者と協力して行動するための「共同エージェンシー」を育成することが重要である。個人のエージェンシーと協働を通じたエージェンシーの相互作用を促進することは、現代社会において必須のスキルを育成する上での核となる。

「Learning compass」は「学びの羅針盤」と訳されることから、児童生徒が先生の指示などに盲目的・受動的に従うのではなく、自らVUCA時代と言う未知の社会を自ら歩み進むとき、その方向性を示すものである。つまり、極論を述べると自らの人生に自ら責任を持って行動できるということ、自らの人生は自らで創るしかなく、そのために学ぶと言える。あくまで羅針盤であり、方向性を示してくれるものに過ぎない。

OECDは「学びの羅針盤」において、教育の目標として「ウェルビーイングの実現」を掲げている。ウェルビーイングとは、児童生徒が幸福で充実した人生を送るために必要な、心理的・認知的・社会的・身体的な働きと潜在能力を指す。この理念は、日本の教育基本法における公教育の目的である「人格の完成」とも共通しており、世界的な教育改革の潮流に沿ったものである。日本においても、令和5年度から9年度の教育振興基本計画において「日本社会に根差したウェルビーイングの向上」が掲げられ、世界的な教育改革の動きに積極的に対応している。ウェルビーイングというのは最終的には自ら実現するものであると言える点で、上述したLearning compassの基本的性質に対応していると考えられる。

フィンランドの教育は、2003年および2006年に実施されたPISAでの学力世界一の結果を受け、注目を集めた。しかし、近年ではフィンランドのPISAでの順位が下降し、国内でも学力に関する議論が活発化している。フィンランドの教育学者パシ・サルベリ氏は、PISAの結果を「測定器」として位置付け、学力はあくまでウェルビーイングを実現するための一つの尺度に過ぎないと指摘している。フィンランドでは、学力向上だけを目的とするのではなく、ウェルビーイングの実現を教育改革の土台として進めており、この点においても教育の理想に唯一の正解はないことが強調されている。

したがって、学校教育改革を進める上で重要なのは、ウェルビーイングという高次の目標を基に、時代に適応した学びの在り方を模索し続けることである。教育の目的は単なる知識の習得にとどまらず、生徒が自己の人生を切り開き、他者と協働しながら社会に貢献する力を育むことにある。教育改革の本質は、学力向上のみならず、ウェルビーイングの実現に向けた総合的なアプローチであるべきだと言えよう。これは国際的な教育改革のトレンドであり、我が国もVUCA時代にウェルビーイングの実現に向けて様々な取り組みが推進され、今後も推進されていくと考えられる。


参考文献:

・OECD.(2019)“OECD Learning Compass 2030”
https://www.oecd.org/content/dam/oecd/en/about/projects/edu/education-2040/concept-notes/OECD_Learning_Compass_2030_concept_note.pdf

・宮田純也 著. (2025). 『教育ビジネス』. クロスメディア・パブリッシング.

・宮田純也 編著. (2023). 『SCHOOL SHIFT』. 明治図書.

・宮田純也 編著. (2024). 『SCHOOL SHIFT2』. 明治図書.

・リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット 著、宮田純也 監修. (2023). 『16歳からのライフ・シフト』. 東洋経済新報社.

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