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【Moodle公式:翻訳】教育におけるアクセシビリティの課題と可能性

【翻訳】

アクセシビリティは「あとから加えるもの」ではない

教育におけるアクセシビリティは、長らく「合理的配慮」として扱われてきました。つまり、後付けの修正や例外対応という認識です。しかしこれは、「標準的な学び方」が存在し、それに合わない人だけが特別な対応を必要とする、という前提に立っています。そしてその前提こそが、間違っているのです。

本当の障壁は、学生ではなく教育システムそのものにあります。

障害は、個人の欠陥や問題ではなく、私たちがどのように学校・教材・テクノロジーを設計しているかという社会的な構造の問題です。
視覚障害のある学生が課題にアクセスできないのは、視力の問題ではなく、その課題が彼らを前提に設計されていなかったからです。
講義動画に字幕がないのは、聴覚障害のある学生の問題ではなく、複数の学び方に対応する支援が組み込まれていないことが問題なのです。

「視覚障害のある学生が課題にアクセスできないのは、視力が問題なのではなく、その人を考慮してコンテンツが設計されていないから。講義動画に字幕がない場合の問題は、聴覚障害のある学生ではなく、そもそも学びの多様性に配慮した設計が欠如していることです。」

障害を「個人の限界」ではなく「システムの課題」として捉え直すと、すべてが変わります。アクセシビリティは“後回し”ではなく、教育設計の出発点になるのです。


教育に根付くエイブリズム(能力主義)

エイブリズムとは、「特定の身体や認知のあり方こそが“普通”で、それ以外は劣っている」とする考え方で、私たちの教育システムに深く根付いています。

たとえば:

  • すべての学生が同じ速度で文章を読めることを前提とする
  • 90分間の講義に休憩なしで集中できることを前提とする
  • 試験は制限時間内に終えるものだとする

こうした前提は、「できないのは本人の能力が足りないせい」という誤った理解を生み、学び方の多様性そのものが持つ価値を否定してしまいます。

これはデジタル学習にも顕著です:

  • テキストばかりで代替手段がない教材
  • 字幕のない動画
  • キーボードだけで操作できない設計
  • 支援技術と互換性のないプラットフォーム

しかし、最初からアクセシビリティを前提に設計することで、すべての学習者にとっての質の高い学びが実現できます。

たとえば:

  • スクリーンリーダー対応の教材は、誰にとってもわかりやすく直感的
  • 字幕は、聴覚障害のある学生だけでなく、騒がしい場所にいる人、非ネイティブスピーカー、読んで理解したい人にも有効
  • テキスト・音声・動画・インタラクティブ要素を組み合わせたマルチモーダル学習は、さまざまな学び方をサポートします

つまり、アクセシビリティの優れた設計は、すなわち「良いデザイン」なのです。


インクルーシブ教育はチェックボックスではなく「姿勢」

アクセシビリティはコンプライアンスの問題ではありません。公平性の問題です。

それは、障害が「例外」ではなく、人間であることの自然な一部であるという認識を持つこと。
平均的な学生を想定するのではなく、学習者の多様性を前提にシステムを設計することです。

具体的には:

  • 柔軟なコース設計:複数のアクセス方法、評価手段、学びの形を用意
  • 支援技術に対応したテクノロジー:音声読み上げ、明確なデザイン、ツールとの互換性
  • 教員や設計者へのトレーニング:アクセシビリティを「追加作業」ではなく「基本スキル」と捉える
  • 障害当事者の声を中心に:実際の壁を体験する当事者こそが真の課題を知っています

インクルーシブ教育とは、障害のある学習者にアクセス、自己決定、尊厳を与えることであり、それは「おまけ」ではなく当然の権利です。


アクセシビリティ=イノベーション

皮肉なことに、いまも「合理的配慮」とされている多くのアクセシビリティ機能は、実はより良い学習手段でもあります。

  • 音声入力は運動機能に制限のある人に便利ですが、移動中にアイデアを記録したいすべての人に役立ちます
  • ダークモードは目の疲れを軽減し、誰にとっても快適
  • キーボード操作は多くのユーザーにとってマウスより効率的

教育は本来、人間の可能性を広げるためのイノベーションです。
それなのに、なぜ私たちは今でもアクセシビリティを“負担”として扱っているのでしょうか?

私たちがアクセシブルなインフラを築くことで、より多くの学生が成功できる環境をつくることができます。
特別対応のレッテルを剥がし、学生がシステムに適応するのではなく、システムが学生一人ひとりに適応する社会を目指すべきです。

これは「義務のチェックリスト」を満たすことではなく、排除された人々に対する正義の実現なのです。
教育は、アクセシビリティの壁によって左右される“特権”ではなく、万人にとっての“権利”であるべきです。
そして私たちがインクルージョンを前提に設計することで、学びを超えた、より公正な世界を築くことができるのです。


著者について:スコット・アンダーバーグ

スコットは、世界中の大学がより良いオンライン学習体験を提供できるよう支援してきた教育テクノロジーのリーダーです。彼のキャリアはアメリカのeCollegeヘルプデスクから始まり、教育機関や学生への直接支援に携わってきました。

その後、eCollegeのPearsonによる買収を経て、EMEAでの市場開拓、オーストラリアでのオンラインプログラム事業の立ち上げ、北米以外の市場でのオンライン学習事業の展開などを担当。
そして2024年2月、Moodleの創設者マーティン・ドギアマス氏の後任として、MoodleのCEOに就任しました。

彼は、Moodleコミュニティの一員として、世界中の教育者や学習者のために、Moodleの可能性をさらに広げていくことに情熱を注いでいます。
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原文(英文)のこちらからご覧いただけます。

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