実践コミュニティの持続的な成長のための デジタルバッジのデザイン
〜連載:インストラクショナルデザインから見るデジタルバッジの可能性(6)〜

2025年12月14日 天野 慧(グロービス経営大学院教員)

これまでの連載では、教授を支える道具(Instructional tool)、つまり、学習目標をより効果的、効率的、魅力的にするためのデジタルバッジの利活用方法をみてきた。一方で、海外の研究では、こうした教授を支える道具とは異なるデジタルバッジの可能性を提案している研究もある。

連載の第6回では、その中でも学習の社会・文化的アプローチに基づくデジタルバッジのデザインに焦点を当てる。特に、コミュニティ内での相互作用や役割の可視化といった、学習を社会的な営みとして捉える観点からデジタルバッジの活用可能性について言及している海外の研究を紹介する。学習者同士の相互作用を促し、コミュニティが自律的に成長していく仕組みをつくることは、一度きりの研修では終わらない継続的な学びの場を創出するうえで重要な視点であると考えられる。そのため、新たなデジタルバッジをデザインするための新たなアプローチとして紹介したい。

学習の社会・文化的アプローチに基づくデジタルバッジのデザイン

学習の社会・文化的アプローチに基づくデジタルバッジのデザインを提案している研究として、Hickey and Chartrand (2020)が挙げられる。Hickey and Chartrand (2020)は、デジタルバッジを管理・発行するシステムの利活用実態について調査し、効果的な利活用の方法について提案した。調査の対象となったのは、2012年から2014年にかけてマッカーサー財団による研究助成the Design Principles Documentation project (DPD) に採択された30のプロジェクトであった。この時期はデジタルバッジの黎明期にあたり、この研究助成を契機として、デジタルバッジは研究者や民間事業者の注目を浴び、研究が活発化した。現在でも、ここで得られた研究知見が、現在のデジタルバッジ研究の土台となっている。

この研究で明らかにしたのは、各プロジェクトでのデジタルバッジの利活用の方法は、「コンピテンシーバッジ」 (competency badges)、「完了バッジ」 (completion badges)、「参加バッジ」 (participation badges)、「ハイブリッドバッジ 」(hybrid badges) の4つに分類されるということである(表1)。そのうえで、「参加バッジ」が、ほかの種類のバッジに比べて、バッジの利活用に成功したことを明らかにしている。ここでのバッジの利活用の成功は、学習者が、デジタルバッジをどのくらい獲得しているか、他者とどれほど共有しているかなどの活用度によって判断された。

表1 デジタルバッジ発行の根拠となる学習成果の種類

  • コンピテンシーバッジ
    特定のコンピテンシーの習得が対象。総括的評価の結果を示し、外発的な動機づけを促す
  • 完了バッジ
    探究学習などにおけるプロジェクトの完了が対象。パフォーマンスやポートフォリオに対する非公式で形成的な評価であり、より内発的な動機づけを促す
  • 参加バッジ
    ソーシャルラーニングや協同的なプロジェクトの完了が対象.研修やセミナーへの単なる出席は対象外。相互評価を通じて、社会的・文化的な動機づけを促す
  • ハイブリッドバッジ
    上記のうち,複数を対象として発行しているバッジ

※天野(2022)の表1の発行対象の項目に関する記載を独立した表にまとめた天野(2025)の表1を掲載した

「参加バッジ」は、単に授業に出席するだけ、イベントに顔を出すだけの「出席バッジ(mere attendance)」とは明確に異なるものである。「参加バッジ」が発行の対象としていたのは、グループプロジェクトで学習者がほかの学習者に貢献したり、クラス内でほかの学習者が困っていることに貢献したりといった、コミュニティへの実質的な貢献であった。また、それらの貢献の評価方法としては教師や専門家による評価だけでなく、ほかの学習者によるピア評価を採用したプロジェクトが多かったという。

こうした「参加バッジ」を導入したプロジェクトでは、学習者が学習コミュニティの中で役割を果たしたり、貢献したりといった成果を可視化し、承認することが重視された。この設計の背後にある理論は、ヴィゴツキーの学習の社会文化的アプローチ(学習を個人の認知プロセスだけでなく、社会的相互作用や文化的文脈の中で起こる現象として捉える理論)や「正統的周辺参加」(学習者がコミュニティの周辺から徐々に中心的な役割を担うようになっていくプロセスを通じて学ぶという考え方)である。参加バッジでは、これらの理論的背景を踏まえ、学習を個人の頭の中だけで起こる現象としてではなく、コミュニティへの参加を通じて起こる社会的な現象として捉えている。そして、この視点に立って、バッジを単なる達成の証明ではなく、コミュニティ内での役割や貢献を可視化し、学習者のアイデンティティ形成を支援する道具として活用することを提案している。このようにバッジを用いることで、学習者は「このコミュニティで自分は貢献できる存在だ」という感覚を持つことができる。そして、そのことが継続的なコミュニティへの参加の動機づけとなる。こうした設計が学習者の内発的動機を高め、結果として積極的な活用につながった。

ほかの、「コンピテンシーバッジ」では教師による学習成果の評価が求められるため、教師に運用の負荷がかかってしまい、運用が困難なため、積極的に活用されなかったという。それに対して、「参加バッジ」では、発行の根拠となる評価を教師による「厳密な測定」ではなく、ほかの学習者による「社会的な承認」とバッジを位置づけ、学習者同士による相互評価の結果を根拠としてバッジを発行した。このように評価の方法を変えることによって、発行に伴う負荷を軽減し、システムの持続的な運用が可能となった。また、「参加バッジ」の発行が、学習者同士による学び合いやコミュニティの活発化を促し、結果としてデジタルバッジのシステムも頻繁に利用されるようになった。このように、デジタルバッジの発行を介して学習者がお互いの貢献を承認し合う文化が醸成されることで、教師の介入がなくともコミュニティが持続的に成長していく仕組みが生まれたのである。

以上のように、「参加バッジ」に代表されるコミュニティ内での役割やアイデンティティの醸成にもデジタルバッジを活用することができるという点がこの研究では示されている。

教員の専門能力開発での活用事例

学習の社会・文化的アプローチに基づくデジタルバッジのデザインは実践研究でも検討されている。Gamrat & Zimmerman(2021)は、教員の専門能力開発向けにデジタルバッジシステム「Teacher Learning Journeys (TLJ)」を開発して、実践の結果を報告している。TLJは、ペンシルバニア州立大学とNASAが共同研究として開発したもので、参加者はバッジの発行基準を満たすと、STEM教科の教授法のスキルを証明するバッジが発行される。

TLJの設計思想は、教師が指定したバッジを学習者が指示通りの学習経路で取得させるといったものではない。学習者が自分でキャリア開発目標やパーソナルゴールを決めて、その達成のために、自分の好きな経路を選択しながら、自分自身の専門家コミュニティの中でアイデンティティを形成していくツールとしてバッジが位置づけられている。こうした設計思想を学習者に伝えやすくするために、システムに「Journey」という言葉を使い、ユーザーインターフェースにも旅行のメタファーを用いたデザインを採用している。自分の旅の行き先(キャリア目標やパーソナルゴール)に向けて、どのような順番でバッジを取得していくのか意思決定を支援するツールとしてデジタルバッジシステムが位置づけられている。

この事例では、Hickey and Chartrand (2020)と同じく、学習の社会・文化的アプローチに基づくデジタルバッジのデザインが提案されながらも、異なる視点での活用方法の提案がなされている。Hickey and Chartrand (2020)がコミュニティの活性化という、コミュニティ全体に焦点をおいていたのに対して、Gamrat & Zimmerman(2021)では学習者個人に焦点を当て、専門家コミュニティの中で個人がアイデンティティを獲得していくプロセスを支援するツールとしてデジタルバッジの活用が位置づけられている。具体的には、学習者が「どのような教師になりたいか」「現在の教室に何が必要か」を言語化し、専門家としての理想像に至るために必要な学びを自ら検討する。このように、TLJにおけるデジタルバッジは、学習者が「なりたい自分」へと変容していくプロセスを支える装置として機能している。

一方で、両者に共通するのは教師が提示した目標に到達させるための手段ではない、より主体的な学びを支援するためにデジタルバッジの活用を位置づけているという点では共通している。

学習の社会・文化的アプローチに基づくデジタルバッジはどこで使えるか

学習の社会・文化的アプローチは学校をはじめとするフォーマルな学習機会というよりも、日常的な学習場面などのよりインフォーマルな学習場面の観察を通じて見出されたものである。そのことを踏まえると、学習の社会・文化的アプローチに基づくデジタルバッジも、学校内での正課内学習よりも、よりインフォーマルな学習場面でより力を発揮できるかもしれない。

成人教育の場を考えてみると、実践コミュニティ(特定の領域に関心を持つ人々が、実践を通じて学び合い、知識を共有するコミュニティ)での活用が期待できる。たとえば、学会や職能団体といったコミュニティでの活用方法を考えてみよう。こうしたコミュニティでは、新参メンバーは資格を取得して専門スキルを磨くとともに、コミュニティで他者の実践をレビューしたり、専門スキルを教えたり、ベスト・プラクティスを発表したり、イベントなどの場を企画・主催したりして、少しずつコミュニティ内での承認を高め、中心的な役割を担っていく。

デジタルバッジを用いて、こうした貢献や役割を可視化・承認することができれば、複数のメリットが期待できる。第一に、コミュニティを支えてくれている人材を明示的に評価・奨励できる。第二に、新参メンバーにとって「どのような貢献が評価されるのか」が明確になり、コミュニティへの参加の道筋が見えやすくなる。第三に、こうした人材を仕組みとして持続的に輩出できるため、コミュニティの長期的な活性化につながる。

学びは学校や研修などの教室にとどまらない。むしろ、専門家コミュニティや職場での日常的な実践の中にこそ、継続的で深い学びの機会が存在する。学習の社会・文化的アプローチを参照することで、デジタルバッジはこうした「教室の外」での学びを支援し、可視化する強力なツールとなりうる。「教室の中」だけではなく、実践コミュニティの持続的な成長のためにデジタルバッジを活用する可能性も模索してはどうかと考えている。


参考文献
天野慧 (2022) 教育におけるデジタルバッジのデザインを分類する枠組みの提案. 日本教育工学会2022年秋季全国大会講演論文集, 463-464

天野慧 (2025) 教育実践研究におけるデジタルバッジを活用する方法の違い.日本教育工学会論文誌, 49(1):187-196

Gamrat, C., & Zimmerman, H. T. (2021). Digital badging systems as a set of cultural tools for personalized professional development. Educational Technology Research and Development, 69, 2615–2636.

Hickey, D. T., & Chartrand, G. T. (2020). Recognizing competencies vs. completion vs. participation: Ideal roles for web-enabled digital badges. Education and Information Technologies, 25(2), 943–956.